コーチ石川の感動日記

50.1対120のキャッチボール

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 今年最後の「しゃべる仕事」は、札幌市内の某大学での集中講義でした。“集中”ですから、朝9:00~夕方16:00まで、1コマ90分の授業を4コマずつ3日間ビッチリやります。この大学はなかなか厳しくて、1コマずつ毎時間「受講カード」なるものを配り、記名、提出させることで、教員側がキッチリ(?)出欠を把握できるシステムになっています。

 初日の1コマ目が終わったところで、100枚近い受講カードが私の手元に戻ってきました。パラパラと見ていくと、何やらメッセージが入ったカードがあります。
『メリークリスマス!』  おお!そうか、今日はクリスマス・イブではありませんか。
2コマ目の冒頭、私は、こんな言葉から授業を再開しました。
“メッセージを書いてくださった方がいました。『メリークリスマス』って書いてあります。そうですよね。今日はクリスマス・イブでしたね。皆さん、こんなところに来てる場合じゃぁないですよね。そんな日によくぞ出席してくださいました。ありがとうございます”

 2コマ目を終えて、また受講カードを集めますと、メッセージ付きのカードが今度は6枚ぐらいに増えていました。サンタクロースのイラストが書いてあるものなどもあります。
『石川さんはNHKの有働アナウンサーに似てますね』
“あ、ありがとうございます。よく言われます”
『失礼ですが、コントをやっているときの青木さやかに似てると言われたことはありませんか?』
“ありません。そうですか。似てますか。初めて言われましたね”
『プロ野球では多くがティーチングです。なのでコーチングをやっているところがあるとは知らなかったです。ちなみに自分は千葉ロッテマリーンズのファンです』
“そうですか、マリーンズも今年はファイターズを追い詰め、よく闘いましたよね”
 
 毎回、授業の冒頭で、メッセージを紹介し、私がコメントをつけるようになりました。すると、メッセージ付きのカードが毎時間ごとにどんどん増えていくのです。そのうち、講義の内容について核心をついた鋭い質問を寄せてくる学生さんも出てきました。質問を読みあげ、それに答えると、その時間の受講カードには、
『丁寧に質問に答えていただき、ありがとうございました』
というメッセージが付いて返ってきます。直接、質問しに来る学生さんも出てきました。最終日の最後の時間に集めたメッセージ付き受講カードは実に60枚を超えていました。

 講義室の中は、1対120のコミュニケーションです。ほぼ一方通行です。私は、どの学生さんがどのメッセージを書いてくれたのかさえ全くわからないままメッセージに回答し始めたのですが、こうしてちゃんとコミュニケーションがとれている感じがしてきます。

『大学生活の中でこんなに興味を持てた授業はありませんでした』
『コーチングのスキルなのか、注意もしないのに、こんなに静かになる講義は初めてです』
『最初は単位のためにとったけど、これからの私の人生を変える3日間でした』
『考え方が変わりました。先生に会えてよかったです』
『私たちのために朝から夕方までずっと変わらない熱意で話をしてくれる大人を見て、何も感じない学生はいないと思う』
『“人間には無限の可能性がある”という言葉を心にとめ、社会に出て行きます』
『この授業のことを忘れず、いつか人の役に立ったり、人を力づけられるような人間になりたいです』

 今、この場で全部を紹介しきれないのが、非常に残念でもどかしい思いです。胸が熱くなるような承認の数々、私は演台で読みあげながら泣きそうになる瞬間がありました。最初はカードを通してのコミュニケーションでしたが、お互いにコミュニケーションのおもしろさを実感した空間でした。すばらしい感性とフィードバック力を持った学生の皆さんと過ごせたこの3日間は、私の何よりのクリスマスプレゼントとなりました。

 投げてくれたボールは、きっちり投げ返す。投げ返せば、必ず返ってきます。

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